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今回の個展“I`ve got the key”によせて、緑川雄太郎さんよりテクストを寄稿して頂いたのでご紹介します。
お忙しい中、短い期間で素晴らしいテクストを書いてくださり、緑川さん本当にありがとうございました!
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鍵は投げられた
たとえば長沢郁美の絵に迫るためのキーワードとして、そのまま「
みましょう。本展のタイトルI’ve got the keyに含まれる「鍵」は、冠詞theによって暗示
されているように、
に用いられる「その」鍵という意味になります。よって、theに
らその内容について説明する必要はありません(the keyに対してa keyの場合、まだ了解の
得られていない、「とある」鍵という意味になります。つまり、a keyの場合、長沢郁美は、
聞き手にその説明を要求される、または要求を要求するのです)。
「その」鍵とはいえ、「その」
るかも知れません。「その」
れ以外の場合も)、この場をもって一度the keyについて考えてみるのもいいかも知れませ
ん。
はじめに鍵についての確認をざっくりするならば、鍵は、
た密室状態の場所を開けたり閉めたりするために使われます。
に対してすべての人がその鍵を持ち合わせているのでなく、
人々にのみ所有を許されているものです(限られた鍵の所有者の存
の大多数の非所有者を意味します)。
これを踏まえてthe keyについて考えると、長沢郁美がいう「その」鍵というのは、
いどこのどんな密室空間に取り付けられた鍵穴で、
かという疑問が浮上してきます。
まずは密室空間を特定しにいきましょう。長沢郁美の絵は、
具体的な記号の組み合わせとしてもみえますが、
る絵画空間は具象性を失い、長沢郁美が捉える抽象的な空間、
なのかあまりよくわからない一瞬を絵画形式として切り取っている
しょう。この空間こそがおそらく、
しょうか。
こうやって以下鍵穴と鍵を特定し、
すが、実はひとところに特定できるほど容易ではないようです。
に絵画作品を密室空間とした場合、鑑賞者を鍵、
できますが、絵画作品を鍵穴、鑑賞者を鍵とした場合、
絵画作品を通り越して、その外部、
るでしょう。また、密室空間を鑑賞者とするならば、
でしょう。つまり、鍵と鍵穴と密室空間が意味するところは、
化してくるようです。
つぎに所有者ですが、a keyではなくthe keyとあるので、I’ve got the keyでいおうとして
いる鍵とは、一見馴染みのないこと、まだ知らないことではなく、
知っていることとなります。つまり、その鍵の所有者とは、
ているはずです。ただ、Iという個人なので、
ているというのでなく、
いうことになるでしょう。
密室が密室のままか、密室を開錠できるかは、作家(作品)と鑑賞
ションの具合(たとえば開閉しやすい鍵の技術を作家が取り入れ、
間にする、または開閉しにくい鍵をつくり、
響してくるでしょう。また、
かどうか)ということもありますが、開閉したかった密室、
しようとおもうことすらない密室といった具合に、
あります。
こうしてみてくると、the keyというのはとても複雑なようです。以上ではとりわけ、I’
the keyという展覧会タイトルにあるthe keyについて迂回しましたが、Iとは誰なのか、
have gotの過去完了に対する現在はどこに位置しているのかなど、
載です。実作をみればきっと、
長沢郁美により、ついに鍵は投げられました。「その」
まできています。
緑川雄太郎